皆様はじめまして!
クラゲ屋助手のばすてと申します。
今回から執筆をお手伝いすることになりました~!よろしくお願いします。
早速、クラゲの飼育についてお話させて頂きます。
(前回までにクラゲ博士が採集と餌について書いていますので、まだご覧になっていない方はこちらをご覧くださいね↓)
https://kurage-ya.jp/hou-to-collect-and-breed-jellyfish/
クラゲの飼育はよくある熱帯魚のアクアリウムとはちょっと一味違います。
ですが、気を付けるポイントが分かると意外と単純なのでそれをご説明していきます!
【必要なもの】(餌やり用品は割愛しています)
◇水槽
飼育したいクラゲのサイズに合わせた水槽が必要です。
様々なタイプがありますので、こちらは後ほど詳しくご説明します。
◇フィルター
大きな水槽で飼育する場合は外部式フィルターが必要です。
水槽のタイプによってはスポンジフィルターを付けられるものもあります。
◇ヒーター or クーラー
暖かい水温にすむクラゲ(タコクラゲやサカサクラゲなど)にはヒーター、
冷たい水温にすむクラゲ(シミコクラゲやカギノテクラゲなど)にはクーラーが必要です。
水槽用クーラーは大きな水槽向けの構造で高額なため、小さな容器だけ冷やしたい場合には一人用冷蔵庫などを使うと便利です。
◇エアーポンプとエアチューブ
水槽のタイプによっては水流を作るために使う場合もあります。
エアストーンは細かい泡が出てクラゲの体内に泡が入り弱ってしまう原因になるので、使わないようにしましょう。
◇ライト
光合成するクラゲ(タコクラゲ・サカサクラゲ)には必須です。
用意するのが可能であればメタルハライドランプが一番元気に育ちます。
LEDを使う場合は水草用に販売されている光が強くて波長が植物用の(600-700μmの波長が含まれている)ものがおすすめです。
光合成をしない種類でも観察のためにライトを用意しても良いのですが、
藻類の過剰な発生を防止するために長時間(目安6時間以上)つけっぱなしにしないようにしましょう。
青色の照明は藻類が育ちにくいのでおすすめです。
◇海水
クラゲは体の95%以上が水分です。海水は飼育にかなり重要なファクターになります。
野外で採取したクラゲは天然海水で飼育する事が望ましいです。
天然の海水を汲んで使う場合は他の生物が入らないよう、出来る限り細かい網で濾過して使います。
スドーのメッシュカップはアルテミアを洗うのにも使えるのでオススメです。
天然海水が用意できない場合は人工海水でも飼育できる場合があります。
海水を切り替えるときは今日は四分の一、翌日は全体の二分の一、さらにその翌日は全体の四分の三…というように徐々に切り替えてください。
一気に全部切り替えてしまうと急な水質変化に耐えきれず、気づいたら溶けてなくなって…という事態になりますのでご注意を。
人工海水で飼育する際はなるべくポリプのうちに海水を切り替えておく方が安心です。
人工海水にはサンゴ用のものがオススメです。
◇比重計
比重計は海水の濃さを調べる時に使います。
野外でクラゲを採取した時はとった時点で海水の塩分をはかっておきます。
数日に一度、水槽の飼育水の塩分を測ります。
水分が蒸発して塩分が高くなっているときはカルキ抜きした淡水を足して、ちょうどいい塩分に調整します。
【クラゲ飼育の重要ポイント】
クラゲの飼育において、大変重要なポイントをご説明します!
飼育したい方は絶対覚えてください!!!
ポイントは4つ。
①1つの水槽には1種類のクラゲだけにする
水族館のクラゲ水槽を思い浮かべて頂くと、魚類とは違って色んな種類が混ざっている水槽ってないですよね。
クラゲは同じ種類どうしでは攻撃しないのですが、他の種類に対しては刺胞を発射して痛めつけてしまいます!
アカクラゲやオワンクラゲなどはクラゲ食のクラゲですので、彼らの水槽にミズクラゲなんて入れたらまさしく格好の餌食です。
餌として与える時以外にはほかの種類のクラゲは入れないでくださいね。
②クラゲの体を傷つけない
またまた水族館のクラゲ水槽を思い出してください。浮遊するクラゲの水槽って、クラゲと海水しか入っていませんよね?
浮遊するクラゲの水槽の中に岩や砂利、葉っぱなどの装飾を入れるのはNGです!
体が擦れて傷がつき、そこから弱ってしまいます。
例外としてハナガサクラゲやエダアシクラゲなど海草などに付着して生活するクラゲには掴まれるところ(人工水草や目の粗いメッシュなど)を入れておくと良いと思います。
③水流を作る
こちらも浮遊するクラゲ全般についてです。
クラゲはプランクトンですので、遊泳力はほとんどありません。
彼らは水流が無いと底に沈んでしまいます!
沈んだクラゲは水槽の底の部分から傷んで弱ってしまいます…
本当に繊細な体をしているんです。
クラゲが沈まないために、水槽内になるべくゆるやかな流れを作る必要があります。
水族館のクラゲがみんな同じ方向にぐるぐる回っているのは、沈まないように工夫されているからです。
④傘の内側に気泡をいれない
クラゲの傘はお椀型が多いので一度内側に空気が入ると、
ずっと水面にぷかぷか浮かんだまま自力で戻ることが出来なくなります。
泡はクラゲの傘に穴をあけてしまったり、口から取り込まれて体内に入ってしまうので、
お世話のときに泡が入ってしまったらすぐに取り除いてください!
また水槽を用意するときにもクラゲの生活スペースに細かい泡がないか確認しましょう。
以上の4つはクラゲ飼育の基本になります!
基本を理解していると飼育に工夫が生まれるのでぜひ覚えておいてくださいね。
【クラゲ水槽を立ち上げよう】
基本をおさえたら、次は水槽の立ち上げです!!
飼育したいクラゲのサイズ別にご説明しますね。
ここではメデューサの水槽をご説明します。エフィラ、ポリプの飼育はこの後になります。
◇小さめ(傘径1~5cmくらいまで)のメデューサの水槽
「クライゼル式(kreisel)」と呼ばれる水槽がオススメです。
すみだ水族館のクラゲラボにおいてある水槽がこのタイプです。
見た目もおしゃれでかっこいいです!
この水槽は泡が動くことで水流をおこしています。泡で水流を起こすシステムを「エアリフト」と呼びます。
丸がひとつの単純な形状のものや、濾過槽つきのものもあります。
構造が単純なので設置が簡単ですが、泡を使っているためクラゲの傘に気泡が入らないように細心の注意を払う必要があります。
泡の勢いが強すぎないようにしてくださいね。
クラゲが回る速さは、1秒間におよそ2 cm進むくらいが丁度いいです。
早すぎるとクラゲの体が傷み、遅すぎると沈んでしまうので、クラゲを入れたときによく観察してみましょう。
また、このタイプは水量が少ないので水替えが頻繁に必要になります。
飼育するクラゲのサイズや個体数によって頻度は変わりますが、海水が臭くなる前に定期的に水替えしてあげてくださいね!
毎日ペットボトル1本分水替えする、などの方法でも良いと思います。
クライゼル式水槽はもともと小さいプランクトンを研究するために飼育することを目的として作られました。
クラゲもプランクトンですのでこの水槽で飼育されますが、残念ながら小さいクラゲしか飼えません…。
狭い水槽で飼育していると海水が汚れやすかったり、水槽の壁にこすれてしまったりして、クラゲが変形したり衰弱してしまいます。
◇大きめ(傘径5~15cmくらいまで)のメデューサの水槽
仕切りを付けた四角い水槽がオススメです。(江の島式と呼びます)
クラゲにあったサイズの水槽に仕切り板と外部フィルターを取り付けて、クラゲが吸い込まれないように水流を作ります。
水槽のサイズはクラゲの傘径5cmが程度なら60cm規格水槽、
傘径10cmを超えるくらいからは90cm規格水槽がちょうど良いと思います(経験則)。
熱帯魚用などで市販されている水槽には規格サイズがありますので、サイズがよく分からない…という方は
熱帯魚のお店やGoogle先生に60cm規格の水槽はどれですか?と聞いて下さればわかると思います。
いろいろなクラゲを飼育して慣れてきたら色々なサイズの水槽を試してみてください。
水の流れは外部フィルターの流水量で調節します。
こちらも小さいクラゲと同様に、クラゲの流れる速さが1秒に2cm進むくらいが丁度いいと思います。
クラゲが沈んだり、出水口からの水の勢いでクラゲが傷まないようにしっかり観察してください。
仕切り板から水が吸い込まれるしくみになっているので、ここにクラゲが吸い込まれてないかもチェックしてくださいね。
仕切り板にべったり貼り付いてしまって傘に穴の跡がくっきり…なんてことになってしまいます。
出水パイプの位置はクラゲが引っ掛からないように、水面ギリギリにしておくといいかと思います。
パイプが水面より上に出てしまうと泡が発生して、クラゲの傘に入ってしまうのでご注意ください!
◇泳がないクラゲの飼育
サカサクラゲやハナガサクラゲ、カギノテクラゲなど、
地面または海草などに貼り付いて生活するクラゲには水流が要りません。
ただし、フィルターやポンプによる強い水流があると吸い込まれてしまうので注意してください!
泳がないタイプのクラゲにはエアリフトの底面式フィルターを使っている水族館が多いです。
一般的な四角い水槽に底砂(細かめのサンゴ砂)を3cm以上敷き、泡の出口であるパイプは水面付近に配置します。
海草につかまるクラゲは人工水草を入れるとそこにくっついてくれるときもあります。
メデューサの場合、餌は毎日必要です。アルテミアなどクラゲの種類に合わせた餌を与えてください。
毎日餌やりするのでその分水も汚れます。定期的に水替えをしましょう。
メデューサの飼育方法はこんな感じです!
最近は家庭用のクラゲ水槽も色々市販されていて、小さめで安価なものから、ちょっとお高いけどデザイナーズ物件のようにおしゃれなものもあります。
基本的なしくみは初めに説明した2つに近いものが多いです。
慣れてきたら自作するのもいいですね…!アクリルは意外と加工しやすいですよ~
【エフィラの飼い方】
エフィラの飼育には水槽よりもビンがオススメです!
エフィラ以外でも、サイズが1cmに満たないようなヒドロ虫の飼育もビンで出来ます。
まずは1Lくらいの水量があるビンを使うと良いかと思います。
エアチューブの先にガラス管やプラスチックのパイプをつけてビンに入れ、泡で水流をつくります。
ビンで飼育する場合は餌をやった日は必ず水替えをしてください!
水量がとても少ないのですぐに海水が汚れてしまいます。
特にヒーターを使って加温している場合は、クラゲの代謝が早いので水替えを忘れた翌日に全滅…になってしまうくらい水が汚れやすいです!
同じビンを2つ用意して、片方はクラゲを飼育、もう片方は海水だけを入れて、水替えするときはクラゲをもう1つのビンに移すとちょっと楽です。
クラゲが入っていたビンに新しい海水を入れておけば、温度変化も少なく、お世話もしやすいですよ。
加温するときは30cm規格の水槽に半分くらい水(水道水でOK)を入れ、ヒーターを水槽の底に固定して、
クラゲの入ったビンを湯せんすると加温できます。
1つのヒーターで複数のビンを加温できるので便利ですよ!
ただし、ビンが水没して湯せんの水が中に入らないように気を付けてください。
また加温している水は蒸発するのも早いです。湯せんの水が無くならないように注意してくださいね。
ヒーターは電源ONのまま空気中に出ると火事になります!!
なるべく水槽の底に横向きに入れてください。(私も何本かヒーターを焦がしました…)
【ポリプの飼い方】
ポリプは維持するのがとても簡単です。
餌やりの頻度も少なく、うまく飼えば10年維持できることも…
水族館や研究機関では、このポリプを維持することがとっても重要なのですが、そのお話はまたの機会に…
キタミズクラゲのポリプ (撮影:牧野瞳)
ポリプの飼育容器にオススメなのはタッパーです!
そう、百均なんかにもおいてあるアレです。
ポリプは付着生活をするので水流も必要なく、餌も1週間に1, 2回程度で良いので、
水が蒸発しにくい密閉容器が望ましいです。
呼吸もしてはいますがそこまで酸素要求量がないので、空気穴をあけたりする必要もありません。
どちらかというと塩分が濃くならない方が大切です。
ポリプを新しい容器に入れたら、まずは容器に付着させます。
方法は簡単。揺らさないように放置するだけです!
その間は餌やりも必要ありません。
種類による差や個体差もありますが、1週間ほど静置すればタッパーにくっつくかと思います。
くっついたかな~、と毎日蓋を開けたくなりますが、揺らしてしまうとくっつかないので
しばらくは我慢して触らないようにしましょう。
ポリプがくっついたら、餌やりをします。
アルテミアなどをやり、1,2時間程度置いたら水替えをしましょう。
水替えも簡単です。ポリプの入ったタッパーの海水をじゃーっと別の入れ物に移して、タッパーに新しい海水を注ぐだけです。
ただし、たまに剥がれてしまうポリプがいるので、移した海水の中にポリプが落ちていないかよーく探して、
剥がれたポリプはスポイトなどをつかってタッパーに戻してください。
ちなみに、ポリプもほんの少しずつ移動します。新しい海水を前よりたくさん入れすぎてしまうと、水面の方までポリプが移動していて、どんどんポリプが上に上がってきて蓋を閉めると海水が漏れてくる~、という事態になることがありますのでご注意を。
ポリプは分裂など無性生殖でどんどん増殖していきます!
1つのポリプからでもたくさん増えて、タッパーの中がポリプでびっしり埋まるほどに増えていきます。
ポリプにしっかり餌を与えて栄養状態が良くなると、そこからクラゲが遊離することもありますよ!
個人的にはポリプの飼育は楽しくてかなりオススメです!
動かないようで意外と餌に素早く反応したり、水替えの頻度や餌の量が丁度いいと大きく育って元気いっぱいになったり…いろいろなふるまいを見せてくれます。
メデューサの飼育は難易度も高いので、まずはポリプを飼育してクラゲのお世話の流れやクラゲのふるまいが何となく掴めてから、エフィラやメデューサを飼育すると良いのではないかな~と思います。
生き物の飼育にはどうしても、マニュアルのように均一に出来ない部分があります。
飼育するときにはクラゲをしっかり観察して、その変化に気づくスキルが必要です。
同じ種類でも、同じ個体でも、その時その時でちょうどいい餌の量やタイミングが違います。
まずはやってみて、試行錯誤していく事も必要かなと思っています。
大学時代の私の師匠はよく「クラゲの気持ちを考えて、」と言っていました。
学生の時はクラゲの気持ちって何やねん!と思ってましたが、
飼育をしばらくしているとやっぱりクラゲの気持ちが分かんないと育たないな~と。(笑)
しかもクラゲたち、かなり気分屋です。
こちらの記事では、クラゲの飼育の基礎的な事を説明いたしました。
ただし、ここまでお読みいただいた方はお気づきとは思いますが、具体的な数値や量はほとんど出てきません。
これは決して秘密にしてるわけではなくて、クラゲによって変わるので大まかな値しか説明で出来ないんです…!
なるべくこまめに観察して、容器の大きさや水流、水温、餌の量などを調節してみる事が一番上手に飼う秘訣です。
みなさんもぜひ、クラゲ飼育にチャレンジしてみてくださいね!
クラゲの気持ちが分かるようになるかも…?
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