海草の上で微睡むクラゲ。エダアシクラゲの特徴と魅力について

こんにちは!今回初めて記事を担当させていただきます (^q^)/
 

今回はひっつき系クラゲのエダアシクラゲ (Cladonema pacificum)について紹介していきます。

s__18800643Class:ヒドロ虫網

Order:花クラゲ目

Family:エダアシクラゲ科

Genus:エダアシクラゲ属

 

 

 

「エダアシ」の名前の通り、触手が木の枝のように分岐している触手をもつクラゲです。

 生息地は北海道から九州まで全国にかけて分布が確認されています。クラゲと言うとぷかぷか波にゆられて生活しているイメージが大きいですが、エダアシクラゲはあまり浮遊せずにアマモ等の海草に付着して生活を送る刺胞クラゲ類の中でも少し風変わりな性質を持ちます。

 浮遊生活を送るクラゲを飼育する場合、クラゲが水槽の底に沈まないように飼育水を循環させる工夫が必要とされますが、前述の通り本種は一生のほとんどを底生生活で過ごす性質のためグラスなどの容器で簡単に飼育ができます…!

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体の構造の特徴は…

・傘高は3-6mm程度で8-11本程度の放射管をもちます。これは一般的なヒドロ虫網のクラゲが4本の放射管をもつことと対照的です。水中を移動する際は、普段の穏やかな様子とは一変して傘を収縮しながらポンポンと跳ねるような動きをします。

・体の中心に傘高と同程度の長さの口柄があります。この内部は消化管 () で表面には生殖巣があります。口柄の先端には6本の口触手があり、ここには強力な毒針 (貫通刺胞) がたくさん詰まっていて、エダアシクラゲはこの口触手を使って獲物にトドメをさします!

・傘縁からは放射管と同数 (8-11) の触手が伸びて全てが分岐します。それぞれの触手の基部 (触手瘤: しょくしゅりゅう) には外向きに眼点があります。また、触手の基部に近い方に吸盤があります。この吸盤を使って岩や海藻などにくっつくのです…!! 吸盤を使うなんてクラゲなのに、まるでタコみたいですね (^q^)

・補足事項

放射管:胃の辺りから傘の縁(ふち)へと伸びる細い管

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 ポリプはヒドロ花 (写真中央の部分) 3-6本の触手を持っており、触手を駆使して野生下ではシオダマリミジンコ等の小さい動物を捕食します。(もちろんブラインシュリンプも食べますよ!)

写真背景のように岩等の表面にストロンを張り巡らせて無性生殖的に増えていきます。

 水温を5度以下にするとヒドロ花が引っ込み、ストロンだけの状態になります。どうやらエダアシクラゲはその状態で冬を乗り越えるそうです。春になり水温が15度を超えるとヒドロ花を再形成してクラゲ芽をつけ始めます。まるでサクラの開花のようですね(^q^)

・補足事項

ストロン:ヒドロ花同士を繋ぐ、クモの巣みたいな管をさす。

着底時の生息域の拡大、栄養の分配などに用いられている。

 

 実は、エダアシクラゲのこの性質がポリプやクラゲを管理する上で非常に便利なのです!通常、刺胞クラゲ類のポリプは長期飼育となると植え継ぎや水換え等の定期的なメンテナンスが必要となります。また、ヒドロ虫類のポリプの多くはクラゲを形成するキッカケとなる条件がよくわかっておらず気づいたら遊離していたケースが多くクラゲを回収するタイミングをつかみにくいのです。

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 出口ら(2005) によるとポリプを低温下 (5℃) においても10ヶ月程度までは生存が確認されているようです。また、2ヶ月以上低温下におき、常温 (20℃) に置くとヒドロ花形成後に殆どのヒドロ花で同タイミングでクラゲ芽があらわれます。

1: 余談になりますが、私もエダアシクラゲの飼育をしていて、3年間4℃で保存していたポリプを無事復活させることができました。

2: 上記のことは、あくまで日本近海に生息するCladonema pacificumのみで確認されている現象です。近縁種のCladonema radiatumおよびCladonema californicumは冬眠させることができません

 

そして最後に一つ…

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 Cladonema pacificumは生息している地域によって産卵する時間帯が違う報告があります。出口ら(2008)によりますと、松島および折浜 (共に宮城県) に生息するエダアシクラゲは日没後1時間に産卵を開始します。対して浅虫 (青森県) に生息するエダアシクラゲは日出後1時間で産卵します。同様に松島で見られた性質は太平洋側に生息するエダアシクラゲに、浅虫で見られた性質は日本海側に生息するエダアシクラゲでも見られるようです。

 産卵のタイミングが違うということは、産卵を制御している体の仕組みが太平洋側と日本海側のエダアシクラゲで異なることが考えられます

つまり、もしかすると形が似ているだけで別種の可能性があるわけです! (ちなみに、このようなを形が似ているだけで実は別種のことを「隠蔽種」といいます。詳しいお話はまたいつかできればと思います)

今後の分類学上のエダアシクラゲの研究がどうなるか楽しみですね!!!

 

エダアシクラゲは実験生物としても多用されているクラゲで様々な研究機関で飼育されています。

今後も色々とエダアシクラゲで面白いことがわかるかもしれません。

小さくて可愛いのに、実は奥が深い…そんなエダアシクラゲのお話でした!

それでは、みなさま、また別の記事でお会いしましょう〜 (^q^)ノシ

 

<参考文献>

久保田 信 (2014). 魅惑的な暖海のクラゲたち 田辺湾は日本一のクラゲ天国, 紀伊民報.

出口 竜作 and 伊藤 貴洋 (2005). “エダアシクラゲの採集とライフサイクルの制御モデル動物・教材動物としての確立をめざして”. 宮城教育大学紀要 (40): 107-119.

出口 竜作, 青木 瞳, 松田 聖 and 佐藤 英樹 (2008). “エダアシクラゲの放卵・放精の光条件”. 宮城教育大学紀要 (43): 89-95.

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  1. 2017年 8月 29日